【失敗作?】セイコーの振り子発電式ムーブメント『キネティック』とは?|愛用者が評価&解説します

セイコーキネティックプルミエパーペチュアルカレンダー

ビジネスマンにとって時計は重要です。

商談の際などに必ず目に入り、良い時計を着けていることで相手から一目置かれることもあれば、仕事のパフォーマンスもアップすることがあります。

私も複数本時計を持っていますが、その中でも特に愛着を持っている一本があります。

セイコー「キネティック プルミエ パーペチュアルカレンダー」です。

この時計を愛している理由は、「キネティック(kinetic)」というセイコーがかつて力を入れ、今やロストテクノロジー(失われた技術)になりつつある希少ムーブメントを搭載していることです。

今回は、「キネティック」というセイコーの希少ムーブメントについて考察していきます。

セイコー「キネティック」とはどんなムーブメントなのか?

セイコーキネティックムーブメントの仕組み

セイコー「キネティック」とは、一言で言えば、クオーツと機械式時計を融合させたムーブメントです。

いわゆる自己給電式ムーブメントの一種で、発電機能を搭載し、内部の蓄電池に電気を蓄え、そこからの給電で針を動かす仕組みになっています。

その仕組みだけ聞くと、ソーラー式時計などと似ているように思われますが、その発想は間違っていません。

充電し、蓄電池に蓄えるという点では同じ構造です。

キネティックムーブメントの仕組み

キネティックの最大の特徴的なのは、その充電の方式です。

キネティックムーブメントは、かつて「AGS(Automatic Generating System)」と呼ばれていました

Automaticということは、「自動巻き」ということです。

つまり、キネティックは自動巻き時計のように内部に振り子が設置され、振り子の揺れを内部の発電モーターで電気に変換し、発生した電気を蓄電池(キャパシタ)に蓄えるという画期的な発想で生み出された時計です。

セイコーキネティックの仕組み

自動巻きの振り子のわずかな揺れを時計を動かせるほどの電気量にまで増幅させるところにキネティックの技術的な凄みがあります。

セイコーは何故キネティックをリリースしたのか?

キネティックのリリース当時、すでにソーラー発電式クオーツは市場に投入されており、日本や北米を中心に高い評価を得ていました。

セイコーはソーラーについてはシチズンに先を越されたものの、セイコーも遅滞なく追随し、それなりにソーラー式クオーツも売れていたのです。

しかし、ソーラーにも苦手な市場がありました。

それは、北欧やイギリスなどの市場です。

時計の本場であるスイスや、時計産業で高い評価を得るドイツ、ロレックスの本拠地であるイギリスが含まれるそれらの地域は、セイコーの世界戦略上無視することが出来ない市場です。

しかし、それらの地域では冬は日照時間が少なく、当時のソーラー式時計では充電不足になってしまう問題が発生していました。

その解決策として、太陽光以外の充電形式が必要とされ、試行錯誤の末に生み出されたのがキネティックだったのです。

実際、日本国内では生産終了状態ですが、海外では引き続き高い評価を獲得し、今も継続的に販売され続けています。

キネティックムーブメントは失敗だったのか?

キネティックムーブメントの愛すべきポイントは、その「不遇さ」にあると思います。

クオーツの登場以来、世界の時計市場をひっくり返したセイコーでしたが、その一方で電池交換の面倒くささや再利用できない電池の廃棄ゴミに対する問題が発生し、セイコーは発明者としてその対策を求められていました。

発売初期のクオーツ広告

同じ問題に対して、アメリカのラーゲンセミコンダクターやシチズンが1970年代にソーラー充電式クオーツを発明しました。

しかし、当時のソーラー式クオーツはまだまだ発電力が弱かったり、ソーラーパネルの設置によりデザイン上の制約が多いなどの問題がありました。

シチズン「クリストロンソーラーセル」

また、クオーツ時計自体に対しても「安物」「面白味がない」などのレッテルが貼られがちでした。

そんな、機械式としての面白さと発電力を両立した方式として考え出されたのが「キネティック」でした。

しかし、キネティックが背負った期待とは裏腹に、その後のソーラー技術の進歩はすさまじく、蛍光灯レベルの明かりでも充電ができるほどの充電性能に進化。そして、複数の針を動かせるほどの出力すら獲得するに至りました。

すると、機械式特有の様々な面倒くささがあるキネティックは次第に売れなくなり、製造されなくなっていきました。

リリース後数年で製品リリースがされなくなったことを見れば、商業的には失敗と言わざるを得ません。

そのキネティックの欠点については、後の項目で触れていきますが、そんな「時代のあだ花」的な境遇もキネティックを可愛く感じる一つの要因です。

キネティックとスプリングドライブの共通点

結果的に本格的な普及には失敗してしまったキネティックですが、その精神は後のセイコーを代表する高級ムーブメント「スプリングドライブ」に引き継がれています。

スプリングドライブはキネティックと共通する仕様がふんだんに盛り込まれています。

スプリングドライブは、機械式時計のように振り子の振りによってゼンマイに力を蓄え、ゼンマイがほどける力を利用してクオーツと半導体の電動ムーブメントを動かすという仕組みです。

機械式とクオーツムーブメントを組み合わせるという発想は、キネティックからスプリングドライブに引き継がれています。

時代のあだ花だったはずのキネティックが、後の高級ムーブメント「スプリングドライブ」の原点だと思うと、急に愛着がわいてきませんか?

キネティックの欠点と、それを補う技術とは?

キネティックの最大の欠点は、腕に着けなければ充電できないという点です。

ソーラー時計であれば、日向においていたり、蛍光灯の下においておけば十分に充電できるため、外出のない日や別の時計を着けたとしても止まってしまうことはありません。

一方、キネティックでは、腕の振りが充電の必須要素であることから定期的な(できれば毎日)着用が必要です。

もし、着用を忘れると電池がなくなってしまい時間がずれてしまったり、動かなくなってしまったりします。

その弱点を補う技術として、2つの技術が開発されました。

それが、「オートパワーセーブ」と「オートリレー」です。

オートパワーセーブ機能とは

オートパワーセーブとは、自動巻きからの給電がなくなって24時間が経過すると自動的に針が止まり、節電モードに切り替わる技術です。この技術により、一度の満充電で4年もの長期間電池が持つようになりました。

オートリレー機能とは

また、オートリレーとは、節電モードから復帰する際に、時計が止まった状態から再開するのではなく、自動的に正しい時間まで針を回して時刻修正してくれる機能です。

これにより、パワーセーブ状態から復帰させる際に時刻合わせから行う手間がなくなり、腕につけるだけで勝手に現在時刻に復帰してくれるようになりました。

これらの内部時計と針を別々に動作させる技術や、時刻合わせを自動で行う技術は、後のアストロンなどにも活かされています。

愛すべきムーブメント「キネティック」を正しく評価しよう

いかがでしたでしょうか?

後の様々な技術への橋渡し的な役割を担った時代のあだ花「キネティックムーブメント」。

今ではなかなか手に入れることができない希少ムーブメントです。

本当にロストテクノロジーになってしまう前に一本手に入れてみてはいかがでしょうか?

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この記事を書いた人
サトウツトム

仕事道具やガジェットでやる気を補充するタイプの戦略コンサルタント。
専門はWEBマーケティング戦略、営業戦略、商品設計、オペレーション構築など。
常に「賢者の買い物」を志し、高いものより長く愛せるものを探している。

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