
「ヒャクイチの時計って、ちょっとダサいのでは?」
そう検索したくなる気持ちは、よく分かります。私もHYAKUICHI(ヒャクイチ/101)を初めて見たときは、ロレックスを思わせるデザインと手頃な価格から、フランク三浦のような“おふざけ時計”の一種だと思っていました。
正直に言えば、調べたあとも「ロレックス風」という印象まで消えたわけではありません。サブマリーナーやGMTマスター系の時計を知っていれば、似た文法を感じるモデルはあります。オマージュウォッチが苦手な人に、無理におすすめするつもりもありません。
ただ、運営会社の株式会社LIMEや、同社が展開するThe STAC、KNISまで追っていくと、「素性の分からない格安時計」「売ったら終わりの商品」という見え方はかなり変わっていくはずです。
この記事では、なぜヒャクイチが「ダサい」「パクリ」と見られやすいのかを曖昧にせず、そのうえで、どこの会社がどんなポリシーでどんな製品を作っているブランドなのかを詳しく解説していきます。
結論:ヒャクイチはダサいのか
先に結論から言うと、ヒャクイチをダサいと感じるかどうかは、時計そのものの造形以上に、オマージュをどう受け取るかで分かれます。

回転ベゼル、ドット状のインデックス、メルセデス針を思わせる針、サイクロップレンズ、青黒のGMTベゼル。こうした高級スポーツウォッチの定番要素を使ったモデルが多い以上、「ロレックスを連想させない時計です」と擁護するのは無理があります。
だから、元ネタがすぐ浮かぶデザインを気恥ずかしく感じる人や、ブランド独自の造形を重視する人には合わないでしょう。「他人からどう見られるか」が気になる人も、そこは購入前に分かっていたほうがいいと思います。
一方で、ヒャクイチは別ブランドのロゴを付けた偽物ではありません。HYAKUICHIという名前を正面に掲げ、2013年から商品展開を続けてきた京都発のブランドです。運営元も、腕時計を長く扱ってきた京都の株式会社LIMEだと確認できます。
現在のラインナップを見ると、38mmのスイープクオーツ、巨大なアロー針を載せた機械式、左側にリューズを置いたGMTなど、時計好きの「あったら面白い」に応える企画も増えています。
つまり、オマージュ性の強いブランドではある。しかし、偽物や正体不明の粗製乱造品と同じ箱に入れるのも違う。今のところ、これが一番しっくりくる評価です。
2.ヒャクイチとは、どこの国のブランドなのか
HYAKUICHIは、2013年に京都で始まった日本の腕時計ブランドです。公式サイトにも「© 2013-2026 HYAKUICHI」とあり、運営は京都市中京区に本社を置く株式会社LIMEが行っています。

株式会社LIMEの設立は2011年12月。代表者は新井敬介氏(写真中央)です。所在地や代表者は、同社が運営する腕時計専門EC「CAMERON」の会社概要と、同社自身が公表したKNIS立ち上げ時の資料で一致しています。
会社設立から約2年後に始まっているため、HYAKUICHIはLIMEにとって比較的早い時期の自社ブランドだったと見てよさそうです。公式ラインナップでは、クオーツ・デイト付きのHYAKU1-001が「1stモデル」と紹介されています。20気圧防水、逆回転防止ベゼル、ねじ込み式リューズを備えた、いかにもダイバーズウォッチらしいモデルでした。
そこから、クロノグラフ、機械式、セラミックベゼル、GMT、38mmケース、ノンデイトなどへ展開を広げています。2026年8月時点の公式サイトには、No.1からNo.19まで複数の系統が掲載されており、単発の商品で終わっていないことが分かります。
「京都発」「日本製ムーブメント」「日本製時計」は別の話
ここは少し注意が必要です。
HYAKUICHIは日本企業が企画・運営する日本ブランドです。また、多くのモデルで「日本製ムーブメント」が使われています。しかし、それだけで時計全体が国内組み立ての「日本製時計」になるわけではありません。
実際、HYAKUICHIの公式説明は、モデルごとに「日本製ムーブメント」「日本製スイープセコンド」「日本製SEIKOムーブメント」などと書き分けています。時計全体の組み立て地を全モデル共通で説明する記載は、今回確認した公式ページでは見つかりませんでした。
対して、後発のKNISは「ムーブメントだけでなく、腕時計の組み立ても日本」と明記しています。このKNISの方針を、2013年当時のHYAKUICHIにまで遡って当てはめられるかは難しいところです。
3.なぜ「ダサい」「パクリ」と検索されるのか

理由の一つ目は、やはり見た目です。
HYAKUICHIの初期から続くダイバーズ系には、サブマリーナーを思わせるケースや文字盤、ベゼルの構成が見られます。GMTモデルにも、24時間ベゼルやGMT針など、GMTマスター系で広く知られたデザインの文法があります。個々の意匠は腕時計全体に広く普及していますが、それらが一つにまとまると、特定の高級時計を連想する人がいるのは自然です。
二つ目は、高級時計風の外観と低価格の組み合わせです。
数百万円級の時計を思わせる形が数万円で売られていれば、「安いコピーなのでは」と警戒する人もいます。価格差が大きいほど、品質や販売元への不安も生まれやすくなります。
三つ目は、作り手の姿が見えにくいことです。
HYAKUICHIの公式サイトはWixで作られた簡素な構成で、商品はAmazonや楽天市場などのモールで目にする機会が多いブランドです。ブランドを初めて知った人には、通販で突然見つけた格安時計のように映りやすい。株式会社LIMEやCAMERONとの関係も、商品ページを見ただけではすぐには分かりません。
「知らずに着けて、時計好きからパクリだと思われないか」「安物を選んだと思われて恥ずかしくないか」。検索されている“ダサい”には、デザインの好き嫌いだけでなく、そんな不安も含まれているのだと思います。
4.偽物でも、フランク三浦のようなパロディーでもない
この話は法律論まで広げると長くなるので、ここでは商品の見え方を整理するための区分に留めます。
| 区分 | おおまかな特徴 | HYAKUICHIとの関係 |
|---|---|---|
| A:偽物・コピー品 | 他社のブランド名やロゴを偽り、本物のように見せる | HYAKUICHIのロゴとブランド名を明示しており、これには当たらない |
| B:オマージュウォッチ | 有名時計の意匠や定番のデザイン文法を強く参照する | 多くのモデルはここに近い |
| C:パロディー時計 | 元の商品を笑いや風刺の題材として、似ていること自体を楽しませる | HYAKUICHIの主目的とは考えにくい |
フランク三浦は、フランク ミュラーを連想させる名前や表現そのものを笑いに変えるパロディー性が商品の軸です。対してHYAKUICHIは、20気圧防水や機械式ムーブメントなどを組み合わせた実用品として売られています。
分類するなら、「オマージュ性の強い実用時計」が近いでしょう。もちろん、オマージュと呼べば何でも許容できるわけではありません。ただ、少なくとも“偽物”や“おふざけ時計”と同じものではありません。
5.運営会社を調べると、ヒャクイチへの印象が変わる
私の印象が変わった一番の理由は、株式会社LIMEの歩みでした。

LIMEは2011年設立の会社で、腕時計専門通販のCAMERONを運営しています。2021年の自社発表では、京都市で創業11年、腕時計の企画・販売を行ってきたと説明していました。会社設立より前から通販事業の前身があったのか、年数を概数で示したのかまでは公開資料から断定できませんが、少なくとも一時的に商品を仕入れて売っているだけの事業者ではありません。
同社はHYAKUICHIだけでなく、2017年にThe STAC、2021年にKNISを立ち上げました。現在も各ブランドの公式サイトや販売ページが更新され、KNISには京都の直営店もあります。企画、調達、EC販売、返品・交換、修理受付まで、時計事業を継続してきた会社だと分かります。

もちろん、会社が長く続いていることだけで、個々の時計の品質が保証されるわけではありません。それでも、販売元が分からず、在庫を売り切ったら消えてしまう商品のように扱うのは適切ではないでしょう。
HYAKUICHIで得た経験が、どこまでThe STACやKNISへ直接引き継がれたかは公表されていません。ただ、ブランドの立ち上げ順を見れば、商品企画や部品調達、販売、顧客対応で積み重ねた経験が、後続事業の土台の一つになったと考えるのは自然です。
作り手が見えると、同じ時計でも受け取り方が少し変わります。
6.The STAC、KNISへと広がったLIMEの時計づくり
The STACでクラシックな日本製時計へ
The STACは、2017年に京都で始まったブランドです。

名前は「Simple」「Traditional」「Antique」「Classic」の頭文字から取られています。公式サイトでは、普遍的なデザインとものづくりを掲げ、古い時計を思わせる穏やかなデザインを展開しています。
ファーストモデルのAuthentic Roundは36mm。現在のClassic Scuba 200は38mmです。HYAKUICHIの初期モデルに見られた大ぶりで力強いスポーツウォッチとは違い、小径ケース、ドーム風防、レザーベルトなどでクラシックな方向へ舵を切っています。
また、Authentic Roundの商品説明では、セイコー製ムーブメントを使うだけでなく、組み立ても日本で行うと明記されています。LIMEがオマージュ色の強いスポーツウォッチだけでなく、国内組み立てのクラシックウォッチへ商品企画を広げたことが分かります。
私もThe STACの「Authentic Round」を一本持っていますが、どこか古めかしさを感じる見た目と上品さが、どことなくパテックフィリップのカラトラバを連想させます。
シンプルな割に少し厚みはありますが、ドーム型風防の局面が腕と絶妙にマッチするのでとても使いやすく、スーツにも合う形状で重宝しています。
KNISで文字盤と素材に独自性を持たせる
KNIS(ニス)は2021年に京都で始まりました。

こちらは「京都から世界へ」という方向性をより明確に打ち出し、日本国内での組み立てをブランドの柱にしています。
ムーブメントにはシチズン傘下のMIYOTA製を採用。初期の代表作ではCal.8215を搭載し、ムオニナルスタ隕石を使ったメテオライト文字盤を組み合わせました。メテオライトについては、日本彩珠宝石研究所で鑑別を行ったこともLIMEの発表に記載されています。
現在はメテオライトだけでなく、アベンチュリンガラス、彫金インデックス、サンドイッチダイヤルなど、文字盤や素材を主役にしたモデルを展開しています。
企画から生産・販売まで一貫して管理するSPA方式を掲げ、ショッピングガイドには1年間のメーカー保証と修理窓口も明記。さらに、京都・三条寺町エリアには全ラインナップを扱うKNIS KYOTO本店があります。
オマージュ色の強い時計から、独自ブランドへ領域を広げたように見える
HYAKUICHI、The STAC、KNISを並べると、LIMEが扱う時計の幅が広がってきたことは明らかです。
「HYAKUICHIの利益でKNISを作った」「2013年から現在と同じ構想を持っていた」とまでは言えませんが、オマージュ性の強いダイバーズから始まり、クラシックな国内組み立て時計、さらに素材や文字盤で個性を出す日本製ブランドへと、順に領域を広げてきたことは間違いありません。
HYAKUICHIは、その流れの原点の一つだったのかもしれませんね。
7.ヒャクイチ自身にも、自社らしさが加わっている
姉妹ブランドだけが進歩し、HYAKUICHIの進歩は止まったのかというとそうではありません。
現在のHYAKUICHIにも、単に有名時計の見た目をなぞるだけではない企画が見つかります。
機械式のように動く38mmスイープクオーツ
HYAKU1-015Sは、38mmケースに、ノンデイトの3・6・9文字盤を組み合わせたモデルです。逆回転防止セラミックベゼル、ねじ込み式リューズ、20気圧防水も備えます。
この時計の面白いところは、日本製のスイープ運針クオーツムーブメント「TMI VH31」を搭載していること。

一般的なクオーツの秒針が1秒に1回進むのに対し、VH31は1秒間に4回運針します。機械式のように細かく動く見た目と、クオーツの精度や扱いやすさを合わせた独自性の高いムーブメントです。販売ページでは月差約±15秒とされています。
スイープクオーツもVH31もHYAKUICHIの発明ではありませんが、小径、ノンデイト、3・6・9文字盤、セラミックベゼルという少しクラシックな構成に、このムーブメントを載せた組み合わせは独自性が抜群。単にサブマリーナー風の安い時計を作るだけなら、わざわざ選ばなくてもよい仕様に果敢にチャレンジしている意欲作と言えます。
巨大なアロー針を主役にしたNo.10
No.10(HYAKU1-010)は、40mmケースの機械式モデルです。MIYOTA製の日本製自動巻きムーブメントを搭載し、手巻きとハック機能に対応。ノンデイト、20気圧防水、逆回転防止ベゼル、ねじ込み式リューズを備えています。
最大の特徴は、文字盤のかなりの面積を占める極太の時分針です。

特にアロー型の分針は、他の要素が目に入らなくなるほど大きい。ケースの基本形には既視感があっても、この時計は「どの高級時計に似ているか」より先に、針そのものが商品の顔になっています。
左リューズGMTというニッチな企画
No.14L(HYAKU1-014L)は、ケース左側にリューズを置いた機械式GMTです。

ムーブメントはSEIKO系のTMI NH34A。GMT針と24時間回転ベゼルを使い、第二時間帯を表示できます。
左リューズの時計は一般には右腕に時計を着ける人が左手でリューズを操作しやすい配置として語られる一方、このモデルの販売説明では、左腕に着けたときリューズが手の甲に当たりにくい点も打ち出しています。つまり「左利き専用」と決めつけるより、装着位置や操作の好みで選べる仕様です。
外観にはGMTマスター系を思わせる要素が残っています。それでも、NH34Aを使った機械式GMTに、左リューズ、ノンデイト、20気圧防水を組み合わせたモデルを手頃な価格帯で用意するのは、かなりニッチです。
オマージュを捨てず、その上に企画力を加えている
三つのモデルに共通するのは、個々の技術や形を発明したことではありません。
評価すべきなのは、それらをどの価格帯で、どのサイズや文字盤と組み合わせ、商品として成立させたかです。
HYAKUICHIは、ロレックス風の時計を作るブランドから、ロレックス風の文法を残しながら、自分たちなりの選択肢を提案するブランドへ少しずつ変化している。オマージュの域にとどまらず、独自性を少しずつ重ねたラインナップを増やしてきているのです。
8.安い時計だが、作りまで軽いとは限らない
HYAKUICHIの価格は高級時計に比べればかなり手頃です。ただ、公開スペックを見る限り、「見た目だけで中身は何でもいい」という作り方ではありません。

モデルによって差はありますが、日本製ムーブメント、ねじ込み式リューズ、逆回転防止ベゼル、セラミックベゼル、ソリッドブロックブレスレット、ロック機構付きバックル、20気圧防水などが採用されています。38mmと40mm、クオーツと機械式、デイトとノンデイト、通常運針とスイープ運針を作り分けている点にも、時計好きが反応するポイントへの理解が見えます。
ただし、20気圧防水という数字だけを見て、ロレックスなどの本格ダイバーズと同じだと考えるのは早計です。
今回確認した公式サイトと販売ページには、ISO 6425やJISの潜水用防水時計規格への準拠、防水試験の方法、全数検査か抜き取り検査かといった説明は見当たりませんでした。長期使用時の防水維持や個体差も、公開情報だけでは評価できません。
だからといって、20気圧防水の表記を根拠なく疑う必要もありません。分かっているのは、メーカーがその仕様を掲げていること。分からないのは、本格ダイバーズと同等の検査や認証で裏付けられているかどうかです。この二つは分けて考えたいところです。
9.調べるほど、ヒャクイチへの印象は変わった

私は最初、HYAKUICHIをフランク三浦のようなおふざけ時計だと思っていました。ロレックス風の見た目を、安さと面白さで楽しむ商品なのだろう、と。
調べたあとも、オマージュウォッチとしての性格は残りました。そこをなかったことにして「完全に独創的な京都ブランドです」と持ち上げるのは、かえって不自然です。
しかし、作り手まで軽い気持ちで時計を作っているわけではありませんでした。
株式会社LIMEは長年にわたり腕時計を扱い、HYAKUICHIを続けながら、The STACやKNISという国内組み立てのブランドも育てています。KNISではメテオライトや彫金文字盤まで扱い、直営店とアフターサービスの体制も用意しています。
HYAKUICHI自身も、38mmのスイープクオーツ、極太アロー針、左リューズGMTなど、オマージュの土台に自社なりの企画を重ねるようになりました。見た目と価格だけで「よく分からない格安時計」「粗製乱造の売り逃げ商品」と片づけるのは違うと思います。
オマージュが苦手なら、選ばなくていい。それでも、デザインや機能の組み合わせを面白いと感じたなら、HYAKUICHIというブランド名であえて選ぶ理由はあります。
作り手まで知ると、商品を選ぶ理由が増える。今回の調査で、私自身がまさにそうなりました。最初は半信半疑で見ていたはずなのに、今では一本欲しいと思い始めています。



































































































































